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木下カズマ![]() ![]() 「マウイで板買うならkazumaの板 買いなよ。ボードに漢字で“木”って 書いたヤツ」と聞いていた。 失礼ながら、我々は木下カズマ氏の 名前をまったく知らず、言われるがままに 早速ショップで購入したのであった。 ホキーパに行くと誰も彼もが“木”の ロゴ入りのkazumaボードに乗っていた。 特に子供達はほとんどkazumaボードだ。 よっぽど流行ってるんだなぁ… なんてこと 言いながら、この人は一体どんな人 なんだろうと考えた。 日系人かなにかでシェーパーで、これだけ流行ってるんだから スゴイお金持ちかもね… などど勝手な想像をめぐらせたりして。 現地で出会う人々に尋ねると、「朝5:30には毎日ホキーパに入ってるよ」とか 「ものすごくサーフィンがうまいんだよ」とか言う。 話を聞くたびに、一度会ってみたいものだと思っていた。 ある日、マウイで仲良くなったAYA&TAKAから以外な話を聞く。
ということで、木下カズマのファクトリーに行くことになる。
日曜日の午後ハイクに向かう。彼の自宅に隣にあるファクトリーは見た目シンプルな造りだ。 ドアが開いたと思ったら、中から1人の青年が現れた。マットだ。 想像してたより遥かに清潔で誠実そうな人物である。 突然訪ずれたにもかかわらず、快く中に迎え入れてくれる。
立てかけられている。 「これは月・火曜日分で、水曜日になると また新しいのが来るんだよ。」 とマット。 「これ全部あなたがシェイプするの?」 思わず尋ねる。 「そうだよ。 “kazuma SURFBOARDS” の シェイパーは僕1人さ。世界中にたくさん ボードは売られているけれど、僕が シェイパーを訪ねるとほとんどの人が 自分の名前で売られているボードを自分で削ってないんだ。 僕はそういう風にはなりたくない。クオリティーをさげたくないからね。」 マットは週に平均40本ほどの板を削るという。 彼自身9歳から大会に出場してきたコンペティターで、もう20年以上サーフィンしていることになる。 当然だが、波のことを知り尽くしていなければサーフボードは削れない。
シェイプルームには様々な板がシェイプされてる途中だった。 1つ1つのボードを手に取りながら、それぞれの板の特性を熱心に語ってくれる。 中には他のシェイパーが自分用にと頼んだボードもあった。 「なぜシェイパーになろうと思ったの?」 「最初は子供達の板を削っていたんだ。その当時、子供用の板を削るシェーパーはいなかったんだ。 子供達が使っていた板は、皆大人用でレールが厚く、大きさも彼らに全然あっていなかった。 それで子供達に会う板をシェイプし始めたのがきっかけさ…。」 マウイでは車がないと海まで行けないので、サーフィンしたくても出来ない子達がいっぱいいる。 もともと彼は、そんな近所の子供達を連れてホキーパに毎朝連れて行っていた。 子供達にコーチをしているうちに、彼は気づく。 “マウイには才能のある子供達が大勢いる。彼らには正しい道具がないだけだ!” と。 毎朝コーチをしていく過程のなかで、子供達にぴったりの板が出来ていった。 それを無償で子供達に提供していく…。やがて段々数が増えていって 大人達も注目していくようになった。 いまやマウイで“kazumaボード”を知らない人はいない。 驚くべきことに、マットはこれを10代の時から続けている。彼自身9歳から大会に出場していた コンペティターでもあったはずだ。10代の頃なんて、自分自身が最もサーフィンしたい時でもあるのに、 何故そんなことができるんだろう? 彼の元に集まって来た子供達の中には、裕福ではない家庭の子供も少なくない。 そんな子供達に無償で板をシェイプして提供し、コーチをして、スポンサーをとり、 大会の費用から、エアチケットその他すべてを全部フルサポートしている。 もちろん彼がシェイプしたお金でだ。 「あなたのその情熱はどこから来るの?」 「わからない。ただ子供達が好きなんだ。」 笑顔で答えるマット。 こうして集まってきた子供達は現在“チームkazuma”として大活躍中だ。 全米ジュニアでトップに輝いたイアン・ウォルシュを始め、様々な大きな舞台で賞を総なめしている。
マットは我々にサーフボードが出来る過程をひととおり見せてくれた後、シェイプルームの 隣にあるオフィスに通してくれた。オフィスにあるコンピューターには、なんとすべての顧客の データーがディスクに収めてある。 過去、どんな板を買ったか? どういう体形か? どういうサーフィンがしたいのか? さらに、何人もの優秀なサーファーにボードに乗ってもらい、それぞれのボードのサイズにおいて どういう形がマジックボードになりうるか…? コンピューターを駆使して常に検討を重ねているという。
削っていたんだけど、どんな良くできた板でも、 まったく同じものはシェイプできないだろ。 なるだけユーザーにベストな品質の板を 作りたいと思って、これを使い始めたんだ。 勿論すべての板は僕が自分の手で 仕上げている。」 一部には、コンピューターや最新式の道具を使って 板をシェイプするということに違和感を感じる人も いるだろう。しかし、例えばテニスプレーヤーの ラケットやプロゴルファーのクラブなど、他の スポーツ業界ではメーカーがハイテクを駆使して 道具の品質をあげていくのは当たり前の事実だ。 サーフィンは、自然の中でなんの動力も使わず、 自らの力だけでパドルして波に乗る。 シンプルだが激しいスポーツである。 唯一の道具であるサーフボードを、より クオリティの高いものに変えて行きたい、 と誰もが思うに違いない。 マットがすごいのは、それをプロや有名人の為ではなく(勿論彼らのものもあるだろうが…) ごく普通の一般人、彼の板に乗ってくれるすべての人にやっていることだ。 熱心に語る彼の態度からは、生産の効率を上げて単に利潤を追求する姿というのは みじんも感じられない。本当に純粋に、すべての人にサーフィンが上手くなってもらいたい、 という想いが伝わってくる。 ちょうどAYAがニューボードのオーダーを頼み始める。 やさしく 「何がしたいのか?」 「どういう波に乗りたいのか?」 「今どういう板に乗っているのか?」 とカルテでもとるかのように真剣に事細かに質問をするマット。それに答えるAYA。 まるで信頼できる医者と話してる患者を観てるような錯覚に陥る。 一流の馴染みのテーラーにスーツをオーダーメイドで作ってもらうような贅沢さ。 サーファーなら皆こういう人に板をシェイプしてもらいたいと思うのではないだろうか? マットに頼み続けていけば、自分にとってのマジックボードに出会う確率はかなり高いに違いない。 自分だけの為のスーパーオーダーメイドだ。 いくつか質問をしてみた。 “あなたにとってマウイはどんな場所?” マウイは僕が世界で最も好きな場所さ。次は日本だよ。“サーフィンを通じて子供達に何を伝えたいの?” サーフィンのコーチを通して、僕は子供達によりよい人間になることを教えてる。“ずばり、あなたにとってサーフィンとは?” 僕にとってサーフィンは人生の中心的存在だよ。
パーフェクト。カッコよすぎるよマット! しかしそれが嘘いつわりのない真実なのがスゴイ。 彼のチームの子供達は実際、皆優秀な成績をとっている。なかにはオールAの子もいるらしい。 彼がキレイ事を言うだけの人間ではないことを、次のエピソードは教えてくれる。 “マットは、子供達にコンテストで勝つ術を、全知識と経験を通してコーチしながら、 本人も、未だコンペティターとしてローカルな大会に出場し、子供達をそこに連れていく。 彼は 「もし自分がコンテストでいい成績をとれたら、子供達が、僕にできるなら 自分にも出来るということを身をもって証明できる」 と感じているらしい。” ( …kazumaホームページより) 口でいいこと言うのは簡単だ。だが、それを実際の行動で示すほうがどれだけ難しいか。 子供達は敏感で正直だ。こんな彼だからこそ又、子供達もついていくのであろう。 この子供達は確実に、マットと出会って人生が変わったに違いない。 なんだか牧師のようにも見えてきた。というか、今時、牧師でもこんな人いないだろう。 突然の訪問にもイヤな顔ひとつせず、帰り際にTシャツまでくれた。 ・・・・本当にいい人だ。 玄関まで見送ってもらい車に乗りこみファクトリーを後にした。 さわやかだ。一瞬の出会いだったにもかかわらず、私自身、 サーフィンのイメージが大きく変わっていたのを感じた。 今日、たまたま入ったカフェで「MAUI TIMES」(ローカル新聞)を読んでいたら、 ある記事が目に付いた。それは「Kai Barger」という少年の記事だった。 Kaiは、現在12歳以下の部門で、ハワイ州とNSSAナショナルチャンピョンのタイトルを獲得してる。 それは、サンディエゴで行われた6月末のNSSAの大会での、彼のインタビュー記事だった。 記事の最後は、決勝戦の最終ヒートでみごとに優勝し、コーチにかけよって「ベストをつくしたよ!」 と報告するシーンで終わっている。 そしてその記事の横には、「Kai with coach Matt Kinoshita」と書かれた Kaiとマットの写真があった。
「チーム・Kazuma」の快進撃はすでに始まっている。 今後もたくさんの優秀なサーファーがここから生まれるであろう。 マットが「サーフィン」と「人生」を愛し続ける限り…。 Matt Kazuma Kinoshita。 彼は人生という最高の波を、素晴らしくキレイにメイクしていた。 ![]() |