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Pipeline Masters![]() それは旅に出る半年程前のこと。 「俺、パイプラインマスターズを観る事が夢だったんだよね…。」 とポツリとつぶやいたアキヤンの一言から始まった。 “パイプラインマスターズ”がサーフィンの大会というくらいの情報しか知らなかった私に、 「大学生の頃だったかな…。巨大なチューブの波の中から人が出てくる写真を見たんだよ。 あの時はほんとにビックリしたなぁ。あんな波見たことなかったし、こんなとこ本当に人間が入れるのか?とかさ…。 それ以来、ずーっと行ってみたいと思ってたんだよね。」 「そんなに観たけりゃ行けばいいじゃない?」 「それが…2週間の大会期間中に波が来ないと開催されない大会だから、短い旅行じゃ観にいけないんだよ。」 「なるほど…。んじゃ旅のついでにオアフ島に寄っちゃう?」 「マジっ?! いいね〜!」 てな具合で、ウルトラ安易に事は決定。 20年来の夢の実現となった!! あっ、そうそう最初に言っておくがこれはサーフィン雑誌でもなく、私はサーフィンのエキスパートでもなんでもない。 ということで、詳しく正確に知りたい方は「サーフィンライフ」でも買って読んでほしい。 このコーナーはごく私的な感想なので、これを読んでもサーフィンの為にはならないことを断っときます。 あしからず。 [Pipeline Masters] ![]() 別名“Banzai Pipeline”として世界的に有名なポイントで行われるサーフィントーナメント、「パイプライン・マスターズ」は今年31周年目を迎える。 毎年12月に、トリプルクラウンシリーズの最終戦として、世界中のビッグウェイバーが技を競う。 波がチューブを巻く程の大きさを待って開催される。今年は12月8日〜17日が開催期間。 1日で20本の板をへし折るというパワーのある波。ワイプアウトは死を予感させる。 大会のルールはシンプルそのもの。このすごい波でチューブライドをより多くした者が勝利を得る。 詳しくは http://www.triplecrownofsurfing.com/ を参照。 波のサイズがなかなか上がらず、待つこと1週間以上。とうとう始まった! その名も「XBOX GERRY LOPEZ PIPELINE MASTERS」。 過去のパイプライン勝者8名(ロブ・マチャド、ケリー・スレーター、ジェイク・パターソン、ジョン・ゴメス、 デレク・ホー、トム・キャロル、マーク・オクルポ、マイケル・ホー)を含む、計48名で競う夢の共演。 トーナメント形式で勝ち残って、最終ヒートは4人で戦う。 この9日間のウェイティング期間中、毎日朝5時に起床してPCや専用電話 <(808)-596SURF> で大会情報を調べては、 「がーっ、やってない!」 と叫んではフテ寝していた我々。 ちなみにパイプラインまですでに2度も無駄足を運んでいた。
大会開催期間ギリギリの16日(日)、ついに念願の「パイプラインマスターズ」が開かれるとの噂が…。 毎日“遠足の前の日状態”だった我等にとっては、早起きも準備も手馴れたもの。心の準備は万全だ。 早朝5:45分にはワイキキを出発して、3度目の正直、ノースショアへ向かった。 いつもはすいてる道も渋滞している。エフカイビーチには「パイプライン・マスターズ」の巨大な看板が立っていて、 そこをくぐってビーチに下りていくと、トーナメント会場であるパイプラインにたどり着く。 果たして波は本当に上がっているのか?不安なままビーチに出ると…。
波が上がっている!10フィートはありそうだ。至近距離でブレイクする巨大な波。 ものすごい迫力。ビーチには早速スタンバイしているカメラマン達が大勢駆けつけていた。
次第に増えていくギャラリー。期待で興奮する人々に見守られながら、大会は朝8時にスタートした。 ヒート表によると、第一ラウンドは、3人一組で計16ヒート。そこで勝ち残った2人が第二ラウンド進む。 そしてそこで勝ち残ったら第三ラウンド→セミファイナル→ファイナルまでいくことになる。 パイプラインはビーチ目前でチューブになるので、観客はものすごく近いところで華麗なライディングを観ることが可能だ。
試合が始まって間もなく、歴代パイプラインマスターのマイケル・ホーが危険なワイプアウト! 一瞬、ギャラリーに緊張が走る。結局、無事岸までたどり着いたのだが、左肩を負傷して無念のリタイア。 大会しょっぱなのアクシデントであった。パイプラインを知り尽くしている彼でさえ怪我をするのだから、かなり過酷な戦いには違いない。 今回の大会には、歴代のパイプライン勝者8名の他、ASPからセレクトされたサニー・ガルシアや シェーン・ドリアンら8名、そして若手や招待選手など、そうそうたる顔ぶれである。 日本人も、脇田貴之・小川直久の2組がエントリーしている。 それぞれのヒートで、選手のライディングはポイント制で計算されていく。ちなみに満点は10ポイント。
個人的には、ジョエル・チューダーを応援していたのだが、第一ラウンドで惜しくも敗退。 往年のスター、トム・キャロルは39歳とは思えない素晴らしいライディングで「9.5」ポイントを出して、大喝采を浴びていた。 大会DJも「ワォ〜、デジャブー!」と絶叫。
大会進行とともに、波のサイズが上がっていき、途中ヤバイくらいのお化けセットが何度も入り、ワイプアウトの連続。 折れるボード。切れるリーシュコード。1ヒート30分の戦いなので、良い波を見分けるのも勿論大事だ。 様々な駆け引きや決断の連続を、こんなに裸眼で見える距離感のなかでオンタイムで観れていることに感動する。 考えてみると、この情景はそうみれるものではない。この至近距離で、これほどの波に、世界的なプレーヤー達が果敢にチャレンジしている。 その最高のライディングを命がけで撮るカメラマン達。そして、それを肉眼で観て大歓声をあげるギャラリー達。 現在、世界で戦争が起きている事実や、満員電車でゆられてる日本のサラリーマンの日常とか、 主婦の憂鬱とか、安全という枠の中で切れてる子供達とか、餓えている人々とか、そういった様々な出来事も、 今この瞬間のパイプラインで行われているスゴイ世界とは、まるでかけ離れたところにある。 ここには、人間が自然にチャレンジしているという、芸術的ともいえる原始的な世界があるだけだ。
第一ラウンド16ヒートが終了したのは夕方であった。自分達が出たわけでもないのにヘトヘトだ。 どうやらすごいものを観るには、“観る体力”も必要らしい。 翌日、波のサイズは落ちていたが、時間に猶予がないのでこれ以上は大会を延ばせない。 やむなく、ファイナルまでやることになる。この日のパイプラインはグラッシーな波で、クローズアウト気味。 ビッグウェイバーにはやや不利か? セットを待つしかないので、少ない本数のセットを熾烈な争いで取り合う過酷な戦いとなっていった。 第二ラウンド〜第三ラウンド〜セミファイナル。有名選手や歴代チャンプもどんどん負けていく。 そんな中で、確実に勝ち上がってきたケリー・スレーターはやはりスゴイと思う。 去年プロサーファーをセミリタイアした彼も、ワールドチャンピョンのタイトルはいらなくても、 このパイプラインマスターズのタイトル(過去、最多の5回優勝している)は特別らしい。 とにかく、人間離れしたライディングは“美しい”の一言。
いまやこの業界ではベテランの域にいるケリー・スレーターと、若手であるブルース・アイアン、 C.J.ホブグッド、ジェィミー・オブライエンの3人、計4人がファイナルへと進んだ。 波のコンディションは徐々に悪くなっていく。セットがなかなか来ず、焦る4人。 そんななかでも、ケリー・スレーターは確実にチューブをメイクしていく。巧い! 若手の3人も、波のコンディションをものともせず、果敢にチャレンジしていく。 特に、ブルース・アイアンは今日1番という、長いチューブに入ることに成功した。 ファイナルは、次第にケリー・スレーターとブルース・アイアンの一騎打ちといった感じになっていく。 波の数が少ないので、ポジション取りが凄まじい。 やがて段々時間が無くなっていき、「5,4,3,2,・・・プォーーーン」の合図と共に試合終了。 優勝は、僅差で若手のブルース・アイアンであった。試合後の表彰でのインタビューに彼はこう語った。
「優勝できてうれしい。ケリーに足りなかったのはただいい波だけだった。 もしいい波が来ていたら、僕は負けていたと思う。でも…勝ててうれしい。パイプラインマスターズは、僕が本当に小さい頃からの夢だった。 最後岸に上がってきた時に、友達がクシャクシャな笑顔で迎えてくれて肩車してくれた時は本当に感動したよ。 今日は僕にとって、子供の頃からの夢が実現した日さ。Thank you。」 こうして、第31回パイプラインマスターズは終わりを告げた。試合が終了すると同時に、海にサーフボードをもった子供達が一目散に飛びこんでいく。 あっという間に何十人もの人が、パイプラインに入っていった。世界中から来ているカメラマンに、自分達を観てもらいたいのだ・・・。 興奮さめやらないまま、波乗りに興じる子供達。自分が幼い頃に、もしこれを観ていたら、きっと人生が変わっていたに違いない。 この子供達のなかから、将来のパイプラインマスターが出てくる可能性は十分にあるのだ。 世界で何が起ころうと、ここパイプラインには波が立つだろうし、また来年も、そしてその次の年も、この栄誉を目指してチャレンジするものが出てくるのだろう。 この、シンプル且つ、華麗なサーフィンというスポーツの中で・・・。願わくば、この大会が永久に続いていって欲しい。 「パイプラインマスターズ」・・・・。それは世界で最も過酷な、そして美しい波乗りの競演であった。 [勝手に対談] (Yume) 「いやぁ〜すごかったね。パイプラインマスターズ! 長年の夢が実現したアキヤンとしては、この大会を観た感想はどう?」 (Akiyan) 「・・・・感無量です。(涙目)」 (Y) 「しかし、まずビックリしたのは、あのスープのデカさ。いかに波にパワーがあるかっていうことなんだろうけど、 あんなに大きいスープ自体私は初めて観たよ。まぁ、サーフィンの大会自体ちゃんと観たのは初めてだけど、迫力に驚いた。」 (A) 「そうだね…。実際、“あれに入れ”って言われたら、どーしようかなっ感じだもんな。 ところでさ。今回のパイプラインで特に感動したことは何?」 (Y) 「うーん。いろいろあるけど、私が感動したのは、なんといってもケリー・スレーターかな。 あのプロっぷりの凄さ! ケリー・スレーターは超有名だから、名前ぐらいは知ってたけど、 たんにモデル並の容姿でサーフィン巧い人っていうだけだったんだよね。」 (A) 「ケリーが動くとすぐわかったもんな…。ファンが殺到して黒山の人だかりになってた。」
(Y) 「そうそう。ミーハーに私も写真撮っちゃったけど。(笑) でも、実物は結構礼儀正しくてビックリした。全然おごってないし、ヒートからあがって疲れている状態でファンにもみくちゃにされても、嫌な顔ひとつしない。 私が一番ビックリしたのは、ファイナルの時。もっとも緊迫した状態で海に入るまさにその時、一人の女の子が駆け寄って来て、写真をねだったの。 いくらなんでもそりゃないでしょ…って皆思ったんだけど、なんとケリーは入りかけた海にくるりと背を向けて、笑顔で女の子と写真を撮ったんだよ。(笑)…プロだね。 そのくせ、ヒートが始まると、どんどん行くし、本当にチャレンジャー。しかも、めちゃくちゃ巧い!テイクオフもターンも素人目に観ても、切れが別格。 ケリーが乗ると、いまいちの波が凄くいい波に見えるから不思議だった。」 (A) 「それはあるね・・・。特にファイナルでみせたライディングは凄かった。 誰もがつぶれたと思ったチューブの中から、ケリーが出てきたときにはビックリしたよ。 おまけに、そのままその波のインサイドでもう一度チューブに入ったしね。」 (Y) 「とにかく私が感じたのは、カッコイイというより、“強い!”ということ。 王者の風格があったね。“天は2物を与えず”というけど、彼は例外。 波さえくれば、必ず最高のライディングをする。真のプロ根性を見た気がしたよ。それじゃ、アキヤンは何が印象に残ってる?」
俺はなんといってもジョエルのボケっぷりに感動した。 そもそもヒート直前に目が合ってさ・・・。先日会ったのを覚えてくれてたみたいで、 “あっ?!”って友達みたいな反応をして、ハングルースしてくれたんだよね。もう緊張感ゼロ。 そしてヒートが始まったんだけど、ものすごい波でワイプアウトしちゃって、板が流されちゃった。なんとノーリーシュだったんだよ。」 (Y) 「あーそれおかしかった。DJが叫んでたもの。 “OH〜! My god. ヒー・イズ・ノー・リーシュ〜!”って。」 (A) 「練習の時にノーリーシュの選手はいたけど、さすがに本番にはいなかった。 おまけに板も今試してるクラッシックのシングルフィン。大会なのに波を競う気配もなく超マイペース。 一度板を流されて岸まで泳いできて、板持ってまたそのまま入っていったけど、2度もそれやってた。当然ながら、予選落ち。」 (Y) 「DJもあきれてたよね…。“Oh ! NO ! He did it again ! ”(笑)」 (A) 「しかし、俺は、彼のナチュラルさにしびれたね!ケリーとはまったく対照的だね。 ケリーのプロっぷりVSジョエルのボケっぷり、俺はジョエルの方が好きだなぁ。俺はジョエルを目指す!!」 (Y) 「どーでもいいけど、ジョエルはただのボケじゃないよー。 なんたってサーフィンが巧いんだから…。ボケは目指せてもさー…。」 (A) 「うるせーっ!俺がサーフィンへただってか〜?!わかってるこというなー。ボカボカッ…。」 *−−−−しばし、対談中断ーーーー* (Y) 「イタッ。暴力反対。まぁまぁ…落ちついて。それでは、最後に、今回一番感動したことは?!」 (A) 「それは1日目最終ヒートの小川直久でしょう!」 (Y) 「あれはスゴかったねー。予選の最終ヒートだったから、もう夕方近かったし、 観客もダレ始めてて、ちらほら帰る人も出て来てた時だったよね…。」 (A) 「俺さ…“最後は日本人だから、目の前に行って応援してくるよ”って最前列にいったんだよな…。 その頃、各ヒートに定期的にお化けのようなセットが入ってきていて・・・・その波は傍でみててもヤバくてそれまで誰も乗ってなかった。」 (Y) 「あのセットはなんだか皆避けてて、暗黙の了解って感じだった。 ギャラリーからも思わず、ウワァーって声出るくらい大きかったもん。 小川君はヒートが始まってすぐ、「9.8」ポイントの凄いチューブライディングを決めて、 帰りかけてた人も皆驚いて、会場はすでに総立ちになってた。 そこに例のお化けセットが入って来て…。きっとまた、誰も乗らないんだと思ってたのに…。」 (A) 「なんと小川が行ったんだよね!俺は本当にびっくりした! 波の大きさとテイクオフの位置、どれをとっても、過去みた俺のサーフィンのイメージを 超えていた。人間がこんなに美しく、大きなチューブの中に入れるものなのか!と思ったら、全身に鳥肌が立った。」 (Y) 「人は、自分の想像を越えるものを見ると鳥肌が立つんだよね…。 あれはスゴかったよ。DJも“神風ライディング!”とか絶叫してたし、ギャラリーも総立ち。 割れんばかりの拍手だった。小川君はあれで大会初の「10」ポイント、パーェクトポイントを出したんだよね。」
(A) 「隣にいた日本人でさ。20年間パイプラインマスターズを撮り続けてるカメラマンがいたんだ。 その人なんか、小川のチューブライディングを観て、“俺、涙出そうになったよ。”て興奮してた。」 (Y) 「大会直前に小川君の名前を間違えていたDJも、あのライディングの後は、“OGAWA ! KANAGAWA JAPAN ! ”と何度も絶叫していて、 あの日、ハワイの人は小川君の名前を覚えたに違いないね。同じ日本人としてうれしかったよ。」 (A) 「うん。なんだかオリンピック観てる気分だった。とにかくあの波は、俺が過去見た中で、最も大きなチューブだった。本当に感動したよ。」 (Y) 「苦労してパイプラインマスターズを観た甲斐があったね。」 (A) 「つきあってくれてありがとう。」 (Y) 「いえいえ、どういたしまして。私も今日はいいもん見せてもらいました。」 その後も話はつきず、朝方まで盛り上がったのでした。おしまい。 ![]() |