Vol.27 『Nimbin』
  2002年3月5日

それはワイキキのタワーレコードから始まった。
年明けに波もなく、暇を持て余した我々は、CDでも買おうとあれこれ物色していた。
ちょうど読むものもなくなっていたので、ついでに雑誌も1冊買った。
その中の記事で取り上げられていたのが「ニンビン」だったのだ。
当時オーストラリア入りが決まっていたので、機会あれば行ってみるかという話に…。
ニンビンロード
ニンビンへの道。
看板
ここが入り口。

バイロンベイから車で1時間半の場所にその街はある。
牧草地の真ん中の1本道を延々と進む。いくつか街を通り抜け、大きな岩が見えたらもう近い。
しばらくすると看板が出てくる。そこが「ニンビン」だ。

街というより村に近い。(以後、勝手にニンビン村と呼ぶ)
70年代の空気そのままに封印されたような古びた村。
メインストリートも200メートルくらいで終わってしまう。
住民のほとんどがヒッピーに見えるほど、ヒッピー率は高い。
ここは“クラフトと工芸の街”との歌い文句でツアーも出ているほどだ。
街
街の様子。
ミュージアム
ニンビンミュージアム。
ミュージアム
ミュージアムの入り口。かなりキテる!
しかし、その実体は…??
村に入ると道行く住民が、次々と、「マリファナいらないか?」と声をかけてくるのである。
怪しいおじさんはまだしも、子供から女の人まで、村ぐるみで売ってんのか?というぐらい、矢継ぎ早に声かけられる。 アムステルダムならまだしも、オーストラリアは勿論大麻は違法。だが、この村では「法律って一体なんだろう??」という気分になるくらい、治外法権状態だ。

博物館というよりお化け屋敷(?)といった感じの「ニンビンミュージアム」がメインストリートの中心にあり、 中に入ると、どう見てもガラクタにしか見えないものが羅列されている。
一応歴史のようなものがあるのだが、それによると、この村が出来たのは1882年。
それから恐ろしく遅いスピードで村は進化を遂げ、今日に至る。

もともと住んでる住民はいたって平和。Love&Peaceな人々だ。 メインストリートを少しはずれたら、なんにもないただの田舎。 アンデルセン童話にでも出てくるような村である。ただし、村人はヒッピー風だけど…。 子供もボロボロの服を着て、その辺を元気に駆け回っている。
親もボロボロのヒッピー服なので別に違和感はない。

この村のことを批判する人も多いが、この村でのんびり暮らすヒッピー親子は、いたって幸せそうにみえた。 ここは大人が大人でいるのを放棄したような村。 子供と大人の垣根はほとんどないようにみえる。それを無責任ととるか無邪気ととるかは個人の自由だ。
ヘンプバー
HEMP BAR.
バー
HEMP BAR にて。
マスターのDAVE。
「HENP EMBASSY」(大麻大使館。名前が凄い。)と隣接している「HEMP BAR」。
マスターのデイブはコンピューターオタク。カウンターの奥にはビデオカメラが設置されていて、常にバーの中をビデオで映している。 ここは世界初の“ライブヘンプバー”なのだ。
デイブになんでそういうことを始めたのか?と聞くと、
ヘンプバー
アキヤンがプレゼントした絵。
行くと飾ってあるよ。
「世の中の人はヘンプを理解していない。ヘンプはお酒みたいに、ケンカにもならないし、暴れたりもしない。もっともピースフルで安全なものなんだ。 俺は世の中にそれを訴える為に、常にサイトでバーの中の様子をながしてるのさ。」
と答えてくれた。このバーは当然ノーアルコールである。

本人は大真面目である。デイブだけではなく、この村の人々は、本気で法律を変えるべきだと信じていて、村中至る所で、そういった趣旨のビラが目に入る。 年に1回、「Madigrass Cup」という収穫祭も行われているらしい。

賛否両論はあるだろうが、こんな村が存在していること自体がスゴイと思う。
70年代で近代化から取り残されたような村。オーストラリアの広大な土地ゆえ、今までひっそりと存在出来たのかもしれない。

しかしそんなニンビン村も、近年、移住者が増えてきて問題を抱えている。
噂を聞きつけた人々が、村にハードドラッグを持ち込み始めたからだ。
確かによくよくみると、公園などに、うづくまったまま動けなくなった人や、かなりあぶない状態でフラフラになって歩いている人も見かけた。
人間の欲望に限りなし…か?? どうやらニンビン村も、桃源郷というわけでもなさそうだ。

そんなことを考えながら、村を歩いていたら、音楽が聞こえてきた。
どこかの店がレコードでも流してるのかな?と思っていたら、さっき通った公園から聞こえてくる。 なんと!女の子が一人でミニコンサートをやっている。なかなかウマイ。

コンサート
気分はスーパースター?
公園の観客
でもギャラリーはこれ。

そばでウロウロしてるのは弟や近所子供達。子分をしたがえ、勝手にリサイタルが始まった。
MCも自分でやり、気分はもうスター。 我々が観だすと、いっそうノリノリになっていく。
歌ってる間、そばにいる子分達は退屈していて早く遊びに行きたい様子でおかしい。
散々歌ったあげく、レパートリーが無くなったらしく、
「今日はあたしの為に来てくれてみんなありがとう〜!」と叫んで終了した。

待ってましたとばかりに子分達が、帽子をもって、お金をもらいに大人の所に走ってくる。
我々は十分楽しんだのでお金を入れてあげたのだが、子供達が、例の倒れてる人々の方に向かっていった時には驚いた。
(おいおい、それは無理でしょう…)

でも、子供達は物怖じせず、平然と服をひっぱって、「入れてよ〜」と頼んでる。 彼らにとっては見慣れた風景なのだ。まったくたくましい…。
この子供達はどういう大人になっていくのだろうか?
微妙なバランスで成り立つニンビン村の未来は、実はこの子達にかかっている。

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