![]() |
Vol.29 『MARDI GRAS』![]() その昔、この国に始めてやってきた白人達は、先住民族であるアポリジニを、 カンガルーと同じように撃ち殺していたらしい。 そんな恐ろしい事実も、現代のオーストラリアからは想像できない。 ある時から、この国は「マルチカルチュアリズム(多文化国家)」を目指すことになる。 その結果かどうかわからないが、 現在この国は、「差別のない国」である。 そもそも210年余りの歴史しかないというのもあるだろうし、 土地も村八分が出来るほど狭くもなく、人口も少なく、1人に対して十分過ぎる “スペース”が与えられてるというのもあるだろう。 オージーは皆大抵フレンドリーだ。 アメリカ人もフレンドリーだが、その親切が、競争原理の中から生まれた、 “弱者にも親切に”的なものを含むのに比べて、オージーの場合は違うような気がする。 うまく言えないが、例えば、親であるイギリスに反発して独立したアメリカは長男、 オーストラリアは年の離れた次男的なポジショニングにいるので、気楽で伸び伸びと 育った風体だ。親の期待も薄く、まぁ、健康であればいい、といったところか…。 プレッシャーも少ないので、競争も少ない。 その分、流行も遅いし、女の子もスッピンの子が多い。(勿論大都市は別。) 競争社会から生まれる「刺激」を求めると当てが外れるし、 “音楽”や“芸術”といった点でも遅れてるように思う。 ここまで書くと、オーストラリアびいきの方に怒られるかもしれないが、 私はそんなオーストラリアが結構好きになりかけている。 少なくとも、ストレスを感じにくい社会であることは確かである。 そういう社会で自然と共に育ったオージーは、育ちがいいんだか悪いんだか、 わかんないところがあり、それがまた面白い。 「外国人だから・・・」という目で見られることもほとんどなく、 大体、そんなことはどーでもいいという感じ。「カンガルーじゃなくて人でしょ?」ぐらいの 扱いである。田舎の町や村のバーや店に寄った時、よく見かけた風景で、 精神薄弱のおじさんや、くる病のおじさんらが、店の中でウロウロしてるというのがある。 お店の人も、多少は困ってるんだろうけど、別段嫌がる気配もなく、 たまに適当に相手してやったりして、なんだか平和。 現在の日本ではほとんど見られなくなった風景だ。 ここには、“人が平等でいられる空間”が十分に確保されている!
そんなこんなで、シドニーの「MARDI GRAS」なのである。 シドニーは世界的に有名な“ゲイ・シティ”だ。 街中にあるオックスフォード・ストリートは、“ゲイの聖地”と呼ばれる場所で、住民にも多数のゲイ&レズビアンが多く、1つのカルチャーが作られている。 そんな彼らにとって、年に1度のビッグ・フェスティバルが2月8日からスタートした。 それが、「シドニー・ゲイ&レズビアン・マルディグラ」なのである。 もともとシドニー在住の同性愛者達が、自分達の権利を主張して小さなデモ行進をしたのがきっかけ(1978年)でスタートしたフェスティバル。 今年で24回目。今や、世界最大のゲイ&レズビアンの祭典となっている。 期間中は、コンサートや映画祭、パーティなどが多数開催され、 最終日の3月2日に、ハイライトでもある“ゲイ&レズビアン・パレード”で幕を閉じる。 ちょうどラウンド中に、シドニーに寄る事になるので、ついでにパレードを観にいった。 街中には、「City of Sydney proudly supports Sydney Gay + Lesbian Mardi Gras (シドニー市はゲイ+レズビアンマルディグラを誇りを持ってサポートする)」と書いた看板が大きく掲げられている。街中やる気満々といった空気。
世界中からパレード目当てにたくさんの人達が訪れているらしい。 それでも、なんとかホテルを見つけてチェックイン。 オックスストリートに近いそのホテルには、多数のそれらしき人々でいっぱいである。
パレードの前日は、朝早くから、ストリート沿いの場所とりが行われ、ビール瓶のケース(台にする!)5$が飛ぶように売れている。 8時からのパレードを待ち構え、見物客がもの凄い数で集まっている。 すでに酒盛りを始めてるグループもあって、大賑わい。もう人・人・人!!
その後、様々な音楽に乗って、各チーム(50人〜100人くらい)が、超ド派手な山車や 衣装で登場する。年に一度の晴れ舞台。ゲイ&レズビアンのパフォーマンス。 映画“プリシラ”も真っ青なフィーバー振りに圧倒される!
2時間程のパレードも、かなり見ごたえがある。
ひときわ大きい声援や掛け声がかかる。その中を、制服に身を包んだ警察官達は、胸をはって敬礼しながら進んで行った。カッコイイ…。 ちょっと日本では考えられない光景だ。 ニューサウスウェールズ州では、ゲイ&レズビアンの社会的差別を禁じた法律もあるそう。 小さなデモ行進から始まったマルディグラは社会にも大きな影響を与えつつある。 パレードの後は“マルディグラ・パーティー”で朝まで盛り上がるらしい。 このパーティに潜り込もうと画策したのだが、結局ゲイ&レズ・オンリーということで、残念ながら無理だった。 といっても久しぶりに人の洪水に揉まれた我々はヘトヘトで、とてもじゃないが、どちらにせよ行けなかったろう。 いつもは静かなストリートも、この日は深夜まで、クラブ&バーと化し、大賑わいだった。 パレードが終わったストリートは、恐るべき汚さで、あきれるほどのビール瓶やゴミが氾濫して、オージーのマナーの悪さに驚いたが、 12時頃に、やはり恐るべきスピードで、市を挙げての清掃車の数で掃除されていた。 野放しだけど、やることはやる合理性。 差別なく、すべてのカルチャーを飲み込んでいくオーストラリア。 先進国のかかえる憂鬱をよそに、一抜けする可能性も秘めている。 |