Vol.49 『Todos Santos』
  2002年8月13日

昔観た映画で、追っ手から逃れる犯罪者仲間達のセリフの中で、
「メキシコで会おう!」というのがあったっけ…。
当時幼かった私の頭の中には、まだ見ぬメキシコのイメージが、なにやら
“追っての来ない地の果て”とか、“無法者が集う場所”といった怪しさで広がったのを憶えている。

ある程度大人になってからも、メキシコと言えば、砂漠にサボテン、
ポンチョにソンブレロの帽子、映画「サボテン・ブラザース」の村人やならず者達、フリーダ・カーロ、
はたまたテキーラ、コロナ、タコスの世界であった。

残念ながら、いまだポンチョを来た人にも、ソンブレロの帽子を被った人にも、
「サボテン・ブラザース」に出てきたような村人にも会ってない。(当たり前か!?)
それでも、この乾いた空気と埃っぽさ、射すような日ざしを五感で感じると、
やはり“地の果て”という気がしないでもない。
特にトドス・サントスの街には、その空気が漂っている。

ある波の無い日。マリブから来ていたリックが、「昨日の太平洋側は凄かったよ。」と言うので、
かねてから行ってみたかったトドス・サントスに向かったのだ。

車の荷台
荷台に乗る人々。
よく見かける風景。
車で約1時間のドライブ。
道は簡単。だって1本しかない。
道路も舗装されていてキレイだ。
目の前には例のごとく荷台に人が…。
こちらではよく見かける風景で、
全然珍しくない。
メキシコでは車のスピードが速く、
皆かっ飛ばしているので、
落ちないものか?と、
見ている方が不安になる時がある。

ロス・カボスから太平洋側に位置するトドス・サントスまでの間には、
「セリトス」「サン・ペドリート」「サン・ペドロ」と、いくつかのサーフポイントがあるのだが、
風が吹いていて波に期待が薄かったので、とりあえず、街中にある「ホテル・トドス・サントス」
向かった。以前、和さんから紹介してもらったオーナーのブラッドに会うためだ。
ホテル・トドス・サントス
「Hotel Todos Santos」。

BAR&レストラン
ホテル・トドス・サントスの中にある
BAR&レストラン。

拍子抜けするほど簡単に街に到着。
車を止めたら、目の前に「ホテル・トドス・サントス」の文字が…。
中に入るとロビーがあって部屋が見える。なかなか趣のある部屋だ。
ホテルといっても部屋は数えるほどしかない。
ロビーの奥の階段を下りると、そこにBAR&レストランがある。
カウンターの中の男性に話しかけると、それがオーナーのブラッドだった。
彼自身サーファーなので、太平洋側のサーフポイントをひと通り教えてもらう。

それにしても… ここは「記号」の少ない街だ。
人と出会うのも、場所を探すのも、ビックリするほど簡単で早い。
それだけ田舎ということなのか?!
まずは街の探索へと繰り出すことにする。

ピンクの建物
コロニアル調の建物がカワイイ。
お土産
アート・ギャラリーにて。

トドス・サントスは、18世紀頃からある街で、コロニアル調の建物が風情を感じさせる、
人口3000人余りの小さな街だ。最近はサンタフェあたりからやってきた若い芸術家が移り住み、
アトリエやギャラリーなどもたくさんある。・・・・・・ということだったが、街は小さく、ギャラリーも
あまりたいしたことはなく少々期待はずれ。

それでは!と向かったのが「ホテル・カリフォルニア」だ。
トドス・サントスと言えば有名なのが「ホテル・カリフォルニア」
かのイーグルスが泊まったこともあり、名曲「ホテル・カリフォルニア」のモデルになったと
言われているホテルで、今は営業していないが、世界中からイーグルスファンがこの地を訪れて
いる。(…と、「地球の歩き方」には書いてあった。)
ホテル・カリフォルニア
「Hotel California」。
今はやってない。
サーフショップ
街の中のサーフショップ。
こんな適当な店構えでよいのか?
ぜ〜んぜん、やる気ナシ。
…が、しかし!! 最近になって、実はそれがガセネタという噂が!!
地元の人に言わせれば、イーグルスなんか来たこともないらしい…。う〜ん、拍子抜けするなぁ。
それでもホテル正面には、「ホテル・カリフォルニア」のロゴ入りのTシャツやオリジナルグッズを
売るショップがあって、ホテル・カリフォルニアの曲がこれみよがしに流れていたりする。
ここまでくると、真実はどうにせよ、その商魂たくましさに逆に笑える。
真実のほどは、ドン・ヘンリーにでも聞いてみるしかない。

1件だけあるサーフショップも、超テキトーな店構え。
街全体的にやる気なし、といった感じ。街の探索はわずか1時間ほどで終わってしまった。
ひょっとしたら夕暮れ時とかになると、街の空気がいい感じになるのかもしれないが、
それにはここに1泊するしかないので今回は無理な話だ。(太平洋側を夜間車で走るのは危険。
牛とかヤギが道路に出てくるのは前回経験済み。)

街中を車で通り過ぎようとした時、いきなり警官に止められる。
どうやら免許証を見せろということらしい。話には聞いていたが、実際に警官に止められたのは
初めてだ。実は… こちらの警官は全然信用出来ないとの事。暇さえあれば車を止めて難癖つけ、
結局ワイロを渡せということらしい。 以前話を聞いていたので、シートベルトも免許証も問題なく、
開放してもらった。

“警官が信用出来ない国”というのも、ある意味では凄い。
逆に言うと、殆どのことはお金でカタがつくという事だ。
警官がこれなら、この地にお尋ね者が流れついたら、結構暮らしやすいのかもしれない。
そういう意味では、やはり“追っ手の来ない地の果て”なのかも??

パッとしなかった街を後に、サーフポイントをチェックしにいくことにする。
前回行った「サン・ペドリート」を通り過ぎ、「セリトス」に行ってみる。
『km63(こちらは道路にkm○○と表示されている)とkm65の間の丘を越えたら横道に入る。
 本当はkm64の場所なんだけど、今は道路の表示が消えてるから注意して…』という
ブラッドからの説明を思い出しながら、目的地に向かう。

「ここ…かなぁ…?」。国道から確信のないまま横道に入る。
ひたすらガタガタ道をまっすぐ。 この地の道路は、とにかく舗装された国道から横道に入ると、
やたらガタガタ道になるものらしい。なんだかだんだん慣れてきた。
道
「セリトス」へ向かう道。
セリトス
ビーチ。

到着した「セリトス」は、風が強くクローズ・アウト気味。海には誰も入ってない。
数人いたサーファーも「昨日はよかったんだけど…。」と、皆、呆然とした眼差しで海を
見つめていた。こういう事があると、“いい波を当てる”というのは、つくづく難しいもんだなと思う。
風と潮の流れ、そして勿論天気にも左右されるし、地元の地形に詳しい人に聞くのも一つの手
だが、それとて完璧ではない。なんせ相手は自然なのだから…。
セリトス
なんと「SURF SHOP」の看板が!
見える??
セリトス
サーフショップから見た風景。

振り返ると、ビーチの手前奥に数台止まるキャンピングカーが目に入った。
なんと!その中に「SURF SHOP」の看板が… 思わず、マジ??と近づいてみると、
中にはヒッピー風のおばさんが1人。ほとんど冗談にしか思えない品揃えで、店を構えていた。
どうやらここにしばらく住んでるらしい。キャンピング・カーの中をのぞくと、驚いたことに、
ソーラー・システムから貯水タンクまである。たくましい…。

オーストラリアでもよく見かけたが、メキシコでもキャンピング・カーで生活する人は多い。
ただしメキシコの場合、キャンピング・カーが止まっているのが、キャラバン・パークなどの施設
ではなく、サボテンだらけの砂漠の中だったりするのが凄い。

しかし、もし理想の波が立つポイントの目の前だとしたら?
それはそれで、最高の贅沢ではなかろうか…。

PREV  NEXT

BACK