Vol.54 『9 Palms』
  2002年9月13日

我々が最初に覚えたスペイン語は何か…?
それは、「 Donde esta ○○ ? 」 (“ドンデ・エスタ〜?”と発音)

意味は、「○○はどこですか?」
方向音痴の我々にとって、
想像通りともいえる最初に覚えた言葉である。
以来、何かというとこの言葉を連発しているのだが、皆一概に親切に教えてくれる。

メキシコの車はスピードが早く、運転は荒い。
APECが近いせいか、ハイウェイ(国道1号線)は常に工事中で、車線変更もしょっちゅうだ。
舗装されたハイウェイを一歩入ると、たいていダートロードになる。
当初は運転するたびに緊張したものだが、今ではそれにもすっかり慣れた。
“人間とは環境に慣れる動物”なのだね…。

ハリケーンが近づいたある日の朝。
目の前のポイント「ロックス」に、過去最高にキレイなスウェルが入った!
サイズはセットでオーバーヘッド。面ツル! 人数は我々も含めて8人。
波数は十分。セットの間隔も程良くあり、もう笑いが止まらない。
大きな波だとビビッてしまう私も、こんなにキレイに崩れる波だと、全然怖くない。

こういう時、入っている人が皆ハッピーな顔をしているので、よけい楽しくなるものだ。
海の中で思いっきり顔がゆるんでしまった我々。海から上がった瞬間、顔を見合わせて開口一番、
「明日の朝、9パームスに行こう!!」と、硬く誓ったのであった。

朝日
朝日を観ながらナインパームスに向かう。
「9パームス」は、サンホセ・デルカボ
東の岬にある。ロス・カボス滞在中で、
最もお気に入りになったポイントだ。

どの場所も大抵そうであるように、
「9パームス」もやはり早朝が良い。
午後近くになると風が吹いて、
イマイチになるのだ。
だから必然的に早起きすることになる。
(たまに夕方風が止まる時もGOOD!)

コスタ・アスルから海沿いのダートロードをただひたすら岬に向かって走ること約45分。
ダートロードといっても、普通車で行くことは可能だ。ただし、ポテトチップスが粉々になる
道なので、たま〜にしゃべっていると舌噛みそうになる。我々はこの場所に行きたいがために、
途中レンタカーをジープに変えてしまった。ジープだとまったくストレスなく行けるのでより楽。
ただしジープには窓が無いので、砂埃で真っ白になるのはしょうがない。
道
普通車でも行けるよ。
たまにある段差に注意!
トカゲ
よく見かけるトカゲ。
すばやく道路を横切る。

途中、未舗装の道路沿いに豪邸が、ポツリポツリと建っているのが目に入る。
「こんな所に誰が?」と言いたくなるような場所だが、最近のロス・カボスの
急激なリゾート化を考えれば、将来ここのダートロードが舗装される日も
意外と近いのかもしれない(?)
サーフポイント「シップレックス」を通り過ぎると、さすがに何にも無くなる。
ここまで来たら「9パームス」はもう近い。

9パームス
この5本の椰子の木が目印。
そばに牛の水飲み場がある。
牛君
このあたりには牛がいっぱい…。

進行方向右側に“5本の椰子の木”が見えたら、そこが「9パームス」
9パームスというくらいだから、9本の椰子の木があると思いきや、5本しかない。
なんでも昔は9本あったらしい…。
牛の水飲み場があるので、牛も多く、牛の糞を踏まずに歩くことは難しい。

看板も何も無い。このあたりには店も民家も無い。だから当然トイレもシャワーも無い。
ここにあるのは手付かずの自然と、極上の波だけだ!
9パームスsurf
「9パームス」。
レギュラーの波でうねりもキレイ。
初めてこのポイントに来た時、
ビーチにサーフボード持って歩く人がいて
不思議に思ったが、海に入ると謎は
すぐ解ける。

ここの波は、ものすごくロングライド
出来るのだ!!
考え事出来るくらい長く乗れる。

海の中で一度、時間を計ったことがあるのだが、1本の波をテイクオフした人が岸まで乗って…、
その間なんと1分!! まさにロングライディング!
岸まで乗って振り返ると沖は遥かかなた、…遠い。パドルをする腕がパンパンになる程だ。
だから岸まで乗ったらそのまま上がり、ビーチを歩いて元に戻るというわけ。
数本乗ると、もう十分お腹一杯といった感じの波。

今の時期、人も少ない。いつも3〜5人。勿論波のサイズが上がったら多少は増えるのだろうが、
我々2人だけというのも珍しくない。
サーフィンは、一つのポイントに人口が増えるとストレスがたまるやっかいなスポーツだ。
気持ちよさは、波の数と人のバランスで成り立っている。
やはりこれくらい辺ぴ(?)な場所まで来ないと、空いてるポイントというのは無いのかもしれない。

バギー
この辺でよく見かける
サーフボードを積んだバギー。
エアー・ストリーム
エアー・ストリーム。
この辺でよく見かけるのはバギー。サーフボードを乗っけて砂埃を上げながら爆走していく姿は、
何気に楽しそうだ。エアー・ストリームも見かけた。きっとポイントの前にでも置くのだろう。
旅に出る前、宮崎でエアー・ストリームに住んでいたアキヤンは、思わず懐かしそうに、
「やっぱり、こういう風景に似合うよなぁ…。」とつぶやいていた。

ジープ
物の無い空間。
視界に物や記号の少ない世界。
そこらじゅうに繁るサボテン。
放し飼いの牛。
大空には鳥が飛んでいる。

圧倒的な自然のスペース。

車を止めると“無音の世界”が広がる。
耳を澄ますと、かすかに風の音が
聞こえてきて心地よい。

最初はなんとなく荒涼とした岬で寂しい感じがして、途中の道沿いにポツリと建つ豪邸に、
「なんでこんな地の果てみたいな所に家建てるんだろう?」と感じたものだ。
聞くところによると、大物スターの別荘も多いらしい。
しかしそれもこの地に慣れてくると、それはそれで一つの気持ちよい世界なのかもしれないと
思うようになっていった。

便利と快適な気持ち良さは、必ずしも一致しない。
頭から足まで砂まみれになるのも、所詮、洗えばいいだけの話だ。
悪路もハマーかなんかに乗れば問題なし。暑さもエアコン完備ならOKでしょう。
近くに店がなければ、巨大な冷蔵庫に大量の飲み物や食料をまとめて完備すればいい。
ある程度の準備が可能ならば、確かに、ここでしか体験出来ない快適さを
味わうことが出来るだろう。

看板や標識の無い道も、しばらくすると、岩とか木とか自然が目印になることに気がつく。
これはこれで慣れればシンプルで好い。
『指示』に慣れた日本にいると鈍ってくる動物的感覚を、少し取り戻せた気分だ。

便利さをある程度切り捨てたら、快適になることも多いのかもしれない。
“便利という名の不自由さ”に気が付いた人々にとっての、新しいライフスタイルが
ここには存在している。
お店
ナインパームスの帰りに必ず寄る店。
ここまで来ると、人の生活の気配が
感じられて思わずホッとする。


なんでも屋
出た!「掃除道具売り」。
まだまだ田舎なのだ。

その昔、バリ島の有名なサーフポイント ウルワツに至る道は、ガタガタのとんでもない悪路だった。
当時は、まさか将来この道が舗装道路になって、ポイントの目の前がリゾート化して行くとは
夢にも思わなかった。それと同じ事が、近い未来、この地にも起こり得る。

サーフィンを終えて帰る道中、
「次来る時は、9パームスの前にホテルが建ってて、50人くらい海入ってたら恐いなぁ…。」
「今のうち、この辺に土地でも買っとくかぁ?。」
などと、どうでもいい会話をしながら、
心の奥で、このままでいてくれたらいいなと儚い願いを持った2人であった。

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