Vol.87 『ヒッピーするのも楽じゃない』
 2003年3月18日

初めてヒッピーに出会ったのは17歳の時で、場所はハワイだった。
ビーチにテントを張って暮らしていたカップルは、毎日何する風でもなく、
のんびりと自由そうに生きていた。

その次に出会ったのは10代の終わりの時で、今度はインド。
特にゴアには当時たくさんのヒッピーが住んでいて、ドラッグ文化と共に
大いに盛り上がっていた。彼らの多くはビーチ沿いや山の中に、
XHOSA族もびっくりするようなテキトーな造りの家に、固まって住んでいた。
彼らは皆一様にやさしく、とても親切された記憶がある。

その後、彼らが出没するような所に足が向かなかったせいか、
今回旅に出るまで、久しく、ヒッピーにお目にかかることは無くなっていた。

アキヤンの場合は少し変わってる。
中学生の頃、彼の住むとなり町で、路上で針金で名前を作って
売っていたいつも楽しそうなカップルがいたそうな…。

少年心にそれを見て、いいなぁと憧れたらしく、
「お兄さん達の仕事はなんていうの?」と尋ねたら、彼らは、
ヒッピーかなぁ…。」と答えたそうな。
それを聞いて、ヒッピーが何かもまったく知らなかった秋山少年は、
「僕、大きくなったらヒッピーっていうのになる!!」と宣言して、
親を慌てさせたという逸話を持つ。

…と、このような経過でヒッピーに触れてきた我々なので、
彼らに対する印象はすこぶる良い。だが、自分がヒッピーになりたいか?
と聞かれたら、私は嫌である。 ところが、アキヤンはそうでもないらしく、
旅に出て間もない頃は、ヒッピーもいいねぇ…。」などとよくのたまっていた。
少年の頃の夢がその後も彼の心にくすぶり続けていたのであろう。

しか〜し!!!
今回の南アフリカで、とうとうの奴の夢は破れつつある!?

*          *           *           *

トランス・パーティの情報を教えてくれたのは“隊長”だった。
今年の新年、南アフリカは何年かに1度の皆既日食で、それに伴い、
世界各地から“パーティ・ピープル”(トランス・パーティなどを主催する人々)が
集まり大いににぎわっていたと言う。そして、もうすぐ大きなトランス・パーテが、
再びCape Town(ケープ・タウン)近郊で開かれるというのだ。

Transkeiでドカーンと抜けまくった日々を送っていた我々。
海の水の冷たさにメゲ始めていたので、迷わずそれに参加することにした。
途中、East London(イースト・ロンドン)近郊のGounubieという
なんの変哲もない町に4泊した後、Cape Townに向かった。

「Long St.(ロング・ストリート)に行けば情報入ると思いますよ。」
教えてくれた“隊長”の言葉を頼りに、早速直行!!
フライヤー
トランス・パーティーのフライヤー。

通りを歩いていたそれらしき白人の
旅行者に尋ねると、すぐにチケットが
手に入る店を教えてくれた。FeeはR105。
地図なんぞはなく、フライヤーに
「N1ハイウェイを走り、トンネルを抜けて、
 シェル石油を越え、最初の信号を左に10km。
 ケープの町から100km!」

と書いてあるだけ!

“こんなんで辿り着けるのかぁ?!”と不安に思ったが、
とりあえず、簡単な食料と水、そしてホテルの毛布を
持ち出し、出発してみた。

30分も車で走ると景色は一変する。
目の前には巨大な岩山がそびえ立ち、そのままハイウェイを進むと、
まるでグランド・キャニオンか?と見間違う
会場
パーティ会場となった国立公園。
ほどの岩山の間を走ることになる。
あまりのパノラマ・ビューに、思わず絶句!!

不安だった道も、実際は、フライヤー通り。
…つまり、簡単なのだ!!
だだっ広い南アフリカに再び感動!
パーティ会場は国立公園の中であった。
門をくぐってチケットを渡すと、手首に
ぐるりとビニール・テープを巻かれ、
遂に到着!

旗
会場に飾られた旗。
会場の様子
盛り上がってる!!

今回のトランス・パーティは夕方から始まって、そのまま翌日の午後までのもの。
一晩中、大音響の音楽に乗ってブッとおしで盛り上がるのだ。
会場には1500人は軽く越える人々が集まっていた。
なるほど、こんな大自然のロケーションの中、大音響で踊るのは気持ちよかろう!

中央には干草が引かれた踊り場が作られており、簡単な屋台のような店も
出ているし、トイレもきちんと設置されている。
あたり一帯には、岩の間、川の傍… と、テントがすでにそこらじゅうに張られて
いる。日が暮れると一気に辺りは冷え込み、シャレになんないほど寒くなってきた。
テントも無い我々。う〜〜 こうなったらもう踊りまくるしかないっ!

トランス・パーティは一晩中、大盛り上がりでにぎわっていた。
しかし、悲しいかな体力切れの我々は、最後は睡魔に勝てず、毛布にくるまり
草の上にドロドロになりながら寝てしまったのであった…。

朝、目覚めると人々は、より一層盛り上がり、踊り狂っていた。
地べたで寝ていた体は、ふしぶしが痛む。
コーヒーを飲みながら、そのままマン・ウォッチングにハマってしまった。
すると昨夜は気がつかなかったけど、ここにはヒッピー… というより、
ヒッピー風のファッションに身を固めた人が一杯だったのであった。

ヒッピーファッション
ヒッピーファッション

改めて眺めると、皆おしゃれしている。
最近、とみに“こ汚な系ファッション”が流行っているが、ここにはそれが大集合だ!!
(中には本当に、ただコ汚いだけの奴もいる。)

ヒッピーファッション
ヒッピーファッション

ドレッド・ヘアーもすっかり定着している感がする。
浮浪者のおっさんの髪や、ジャマイカのラスタマンのドレッドとは違い、
彼らのドレッドは、きれいでお洒落なのが特徴。

一時期、髪が思いっきり伸びたアキヤン。
面倒なので、ドレッドにしようか? と本気で考えたものだった。
そうすればさぞかし楽だろう… と奴は思っていたらしい。
あまりのわずらわしさに切ってしまったのだが、未だにその想いは捨てていなかった。

ところが…、こちらに来てから、ドレッド・ヘアーの人に、どうやってるのか?と
尋ねるたびに、めげるような答えばかり帰ってくるのだ。

例えば髪を洗うのはどうするの? と聞くと、『前かがみになって、
30分くらいかけて注意深くゆっくりと洗うので、水に濡れると重くなるし、
首は凝るわで大変だ。その上、乾かすのがもっと大変で、まさかタオルで、
ゴシゴシ拭くわけにもいかず、そのまま軽くはたいたら、自然乾燥。
そんでもって、これが中々乾かない。 Tシャツは濡れるし、肩は凝るし、
日に当てたりいろいろしながら、まぁ、ざっと3時間くらいかかるかなぁ…』、

なぁ〜んて答えばかり帰ってくる。
手入れをしなくてもいいと思ったからやりたかったのに、人一倍手入れがいるとは…。
「俺には、無理だぁ…。」 と挫折するアキヤン。

ヒッピーファッション
ヒッピーファッション

現代版ヒッピーは、皆、服を買ってわざと破ったり、
ボロに見えるプリント地の服を作ったりと、実にこまめなのである。
“ボロで汚く見える為の努力とエネルギー”は大変なのだ!

おまけに裸足で歩いたり、地べたで寝転がれたり、
冷たい水でも泳げたりと、通常彼らはアウトドア派なので、
寒さや暑さに負けず、ちょっとやそっとじゃ病気にならない強靭な体も必要とされる。

ついでに、風呂に入れなくても死なない!というくらいのおおらかな逞しさも大事である。
毎日、シャワーをあびなきゃ気持ち悪い… という人には難しい。

ヒッピーファッション

ヒッピーファッション

そして最後に、これが最も大事なポイントだけど、ヒッピーは定職に就けない。
会社勤務のヒッピーなんて聞いた事もない。
そもそも9時〜5時で働いてたら自由じゃなくなる。

ということで、当然貧乏なのである。
手先が器用なら、ビーズやジュエリーの一つや二つ創れるのだろうが、
そうでなけりゃ、売るもんも無い。

したがって、ご飯もまともに食べれないので、大抵空腹である。
寒さも暑さも耐えるしかないのだ。
翌朝の様子
ヒッピーは忍耐強く、そして辛抱強い。

あたりはすっかり明るくなり、陽射しもきつく
なってきた。ちらほらと帰り始める人もいる。
我々もそろそろ退散しよう。

トランス・パーティはまだまだ終わる気配がない。
皆、踊り続けていた。

トランス・パーティから帰る道すがら、
アキヤンがポツリと一言。
「俺にはヒッピーは無理かもな…?」

そのとおり!
君がヒッピーになるには、相当の努力と辛抱がいると思うよ。
ヒッピーになるのも、ヒッピーするのも楽じゃない。
そう思い知った今日この頃なのである。

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