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Vol.102 『Dutch's Freedam (前編)』
 2003年6月23日

オランダまたはオランダ人のことを「Dutch(ダッチ)」と言う。

“American Dream”が世界中に幅を利かせてるかに見える現在、
それに対抗できる発想があるだろうか?
もし、あるとしたら、それは“Dutch's Freedam”かもしれない。

どちらも『自由』がテーマなのは共通だが、趣は随分と違う。
アメリカの『自由』が、“個人が権利を獲得する”という感じなのに対して、
オランダのそれは“国が保障して与える”といった感じのものだ。

Amsterdamに滞在して約1ヶ月。
国が変われば「常識」も「法律」も変わる。

ここはいろんな意味で刺激的な街だった。まるで小説にでも出てくるような
話がそこらじゅうに転がってるし、ユニークな人間がたくさん住んでいて、
本当に退屈しない街だった。

この国に到着してすぐの頃。
大屋パトが、「髪の毛切りたいならいい人いるよ〜。」と言う。
ちょうど髪の毛をなんとかしたいところだったので、悪くない話だった。
「その人うまいの?」と聞くと、
「彼というか彼女は、その昔女になりたくて今はそうなっちゃった
 っていう人。ドラッグ・クィーンで街一番の美容師だよ。」

などと言うので、それは是非!と頼んだのであった。


ダニカ

ダニカ
ユメ
髪切ってみました。

約束の日。やって来たのはダニカという、シャイで逞しい彼女だった。
カラーとカットを頼んだのだが、腕前はまあまあか?どちらかというとザツい。
ぐっと頭を押さえる力が思いっきり男らしいのが笑える。
カットが終わってしばらく話していたら、なんと!パトの姉(or元兄?)
だということが判明!言っとけよ〜 パト〜(爆笑)!!

そういえば、アキヤンが自転車に乗ってる時、道路の空き缶につまずき、
局部を強打してしばらく口も聞けずに唸ってたら、道路沿いのカフェから、
「Oh〜! Poor girl.」と呼びかけられ、声の主を目で追って見たところ、
黒人のムキムキのおじさんだった…、な〜んてのもあった(笑)。
今思えば、そこはゲイ・ストリートだったのである。

Amsterdamは、ゲイ&レズビアンのパラダイス!
世界中で束縛されていた人達が、自由で生き生きと暮らしている。
他にもそんな国はあるのだろうが、この国ほど社会でその地位が認められて
いる国はないと思う。国が同性愛者の為の記念碑まで建てているのだから。

ダニカは結婚している。自分が男だった時に結婚した。
そして相手は当然男である。こういうパターンも、この国では珍しくない。
だって、この国では同姓同士の結婚が法律で認められているのだ!
「男+男」 「女+女」 がOKなら、「元は男で今は女+男」というのも
全然アリでしょう?

数年前、癌でで亡くなったオランダの元副大統領(女性)は、レズビアンで
有名だった。彼女は公式の場でも、自分のパートナーとしてGFを連れて
歩いていたそうだ。

これ、正確には『登録されたパートナーシップ』と言い、結婚とは呼ばないが、

法律的にはまったく同じでなんの差別もない。
オランダでは、もともと男女間でもパートナーシップのカップルは多い。
男女の付き合い方も意外と慎重で、まずはお茶のんで、食事して、
そのうちたまに互いの家に泊まったりして、その後、一緒に住んでみて、
パートナーシップになった後に結婚に至る… というのが多いらしい。

それを聞いて「Dutchって慎重なんだね?」と尋ねると、
「だって、5年くらい一緒に住んでみた後に、こりゃダメだっていうのある
 でしょ?人間なんだもの。それにもし関係がうまくいったとしても、
 どちらかが急に死んだりする場合だってあるんだから…。
 その時、片方が財産とか保証とか何も残せなかったら大変でしょ?
 だからオランダでは何年一緒にすんだらこう、っていう細かい法律が
 分かれてるのよ。」
と言う。

そう言えば、Dutchは堅実でケチだっていうし、やっぱり自分のお金や権利の
保障が大事でそのシステムが成り立ってるのか?と思い、
「それって結局、お金の権利とか保証の問題?」
「ようするにDutchは個人主義ってことでしょ?」

と意地悪な質問をしてみたら、こうきっぱりと否定された。

「No…! Respect . (尊重する気持ちよ)」

タクシー

タクシー?
ポスター
Gay Clubのポスター。

昔から、Amsterdamは自由な都市として発達してきた。
世界中から物資や情報が集まる貿易港だったこともあり、常識や権力に
とらわれない、自由で合理的な精神が培われていったのは十分想像できる。

もともと各地で迫害された人々を受け入れる寛容さを持っていた街で、
危険を冒しても同胞をかくまったアンネ・フランク一家の話は有名だ。
ヨーロッパの列強国の中で、植民地戦争や侵略も体験してきた。
堅実で質素な生活ぶり、侵略されたことで権力を嫌う性質は、
“他者に寛容な精神”となってこの国に染み渡っていったのかもしれない。

Dutchは「差別」をしない。人との接し方もオーストラリア人並みに親切だ。
これはヨーロッパ社会の中では珍しいことだと思う。
特にAmsterdamなら、“オランダ語を喋れたらDutch”って感じ。
寛容なのか? それとも深い人間考察からなのか? 他民族とのつきあいを
学んできたからなのか? 侵略された歴史を憎んでいるからか…?
弱者やマイノリティへの国ぐるみでの保障制度がなにかと整っている。

昼の様子
昼間はこんな感じ。
ここが夜になると…。
夜の様子
Red Light District
に変わる。

「Red Light District」は、『飾り窓』と呼ばれる売春宿やポルノショップ、
ポルノシアターが運河沿いに軒を連ねている場所だ。

中世の頃から港町だったAmsterdamは船員の集まる場所で、売春宿が
認められたきた歴史がある。その公娼制度は現代へと受け継がれ、
今や売春は完全に合法なのである。つまり、彼女(たまに彼氏)達は、
正当な職業として国から認められているのだ!当然、税金も納めている。
日本で税金も払わずプラプラしている若者より、よっぽど偉いのである。

夜になると、まるで夏祭りのように大勢の人々で賑わう地区。
SM、ポルノショー、なんでもあり…。世界中から集まる巨大な量の欲望が、
毎夜毎夜消費されてる場所だ。国に認められてる安心感なのか?
あっけらかんとした大人の性風俗エリアだ。そんな景色を眺めていると、
オランダには「性」のタブーが、存在していないように思える。

赤いネオン
ポルノ・ショー。
飾り窓
「飾り窓」。

大麻を合法化したのも、世界でこの国が初めて。
もっともハード・ドラッグは厳しく取り締まられているが、
ご存知、『Coffe shop』では、まるでタバコのように売り買いされている。

「性」への寛容さや、大麻の合法化など、あまりの寛容さに、
“快楽と退廃のソドムの都”というイメージを持つ人も多いだろう。
でも、その割には、道に倒れこんでダメになっちゃってる人はいないし、
仕事に行けなくなった人がいるとかいう話や、『飾り窓』に通って人生をフイに
したという人の話も聞いたことがない。
街はあくまで、正常に機能しているように見える。

街中で平気で金の無心をする奴が多いのには驚いたが、それは大概、
Dutchではなく外国人で、ハード・ドラッグに手を出したジャンキーである。
ヨーロッパの列強国の中に暮らすオランダでは、以前からドラッグ問題に対して、
どこの国よりも頭を悩まされていた。そこで、政府はより常習性があり危険な
ハード・ドラッグを徹底して禁止する方向にして、大麻などのソフト・ドラッグを
合法にして、国自体が明確な方向性をしめしたのである。
事実、それによってハード・ドラッグの中毒者の数は、ヨーロッパ諸国に比べて
激減した、と政府は発表している。

それらが正しいが間違ってるかは、現時点では誰にも判断は出来ないことだろう。
でも、ほとんどの国が性風俗やドラッグ問題から目をそらしている反面、
現実にブラック・マーケットが存在しているという事実を考えると、
問題に正面から対処するDutchの姿勢は評価に値すると思う。

CoffeShopの看板
似てないよ…。
CoffeShopのネオン
「Coffe shop」。

そんな時、タイムリーなTV番組を観た。
それはハード・ドラッグの中毒患者に、ボランティアの人々が食べ物を配給
しているという番組だった。民間団体であるという。
驚いたのは、運営資金がすべて市民の寄付でなりたっているという点だった。
オランダにはそういう民間団体が多い。

自分の生活には堅実で財布の固いDutchも、(これはホント! 生活は質素で
合理主義。著書「金持ち父さん」はDutchがモデルじゃないかと思う)
『奉仕』の為には気前良くお金を出す。懐が広いのだ。

エイズが話題になった頃、政府はただちに、ジャンキー達に新品の注射器を
無料で配布したという。法律を破っている人々に対しての対処…。
この国ぐるみの奉仕の気持ちは、私達の常識を明らかに超えている。

外国人から見たら、“ダメな奴にも甘すぎる”という点が心配になるが、
国ぐるみ、地方団体ぐるみで最後まで責任を持って面倒をみるのだから
他の国の人間が口を出す権利などない。 




アートも元気。
アーティストのサポートも活発だ。

「???」

“人間は完璧ではない。快楽に対して禁止しても無くならない。
 無くならないどころか抑制すると闇でやるから余計悪化する。
 悪化してからジタバタしてももう遅い。それよりも、問題があったら
 その事実から目をそらさず、ましてや隠すような事もせず、
 まっすぐ受け止めて対処した方がよい。”
こういった考え方の実践の結果が、“自由な国”を形作っていったのだ。

一瞬、無軌道 or 奇抜に思えるような法律の寛容さも、長い歴史の中で
培われてきた「Dutch的自由」のメンタルのなせる業なのかもしれない。

動物園のラクダ
街中なのに広いスペースで
見ごたえのある動物園。
水族館
水族館。

国が保護してるのは人間だけではない。Dutchは野生動物の保護にも
熱心だ。世界的に有名な環境保護団体『グリーンピース』の本部は
Amsterdamにある。予算のうちのかなりの額と支援者がオランダから
出ている。そしてそれはまたしてもすべて寄付金なのである。

動物保護に関する施設もユニークで数多いが、その中には政府から
まったく援助金を受けず、運営資金はすべて寄付金、維持にかかるスタッフも
すべてボランティアというのが少なくない。
Dutchは、「奉仕」に対してお金を使うのをいとわない人間的な優しさを
持っている人々のようだ。 (話は後編へとつづく…)

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